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(Updated: Mar.09,2010)

24時間コンビニ医療サービスの行く末


岩手医科大学 内科学講座 神経内科・老年科分野
深浦 彦彰

 先日、某病院の夜間救急外来に届いた投書を読む機会があった。「本当に具合が悪くて来ているのに、医師や看護師の応対が悪く不快な思いをした」「良く利用しているが、いつも説明が不十分だし、薬を数日分しか処方してくれない」「検査が終わって、結果説明を聞くときは、別の医師になっていた。本当に正しい治療なのか心配になった」
 コンビニエンスストアが氾濫し、1日24時間さまざまな物が簡単に手に入る現在の日本。医療だって、1年365日、1日24時間、具合の悪い時に受けたいと思うのは、至極当然の要求のように思われる。
 また、本来の治療時間ではない休日や、夜間に、身体の具合が悪くなることは、誰にだって、いつだって起こりうる事態である。夜間救急外来は、まさに、そういう不測の事態に対応するために存在している。
 誰しも体調が悪いときに、このまま様子を見ていればやがて良くなるのか、それともすぐに病院を受診して、手遅れにならないうちに治療を受けたほうが良いのではないのかは、なかなか判断出来ないところである。
 それでは、昼間に受診することが可能であったのにもかかわらず、あるいは、明日まで十分待てそうなのに、時間外や夜中に病院を受診することは、はたしていけないことなのだろうか?
 明日の朝までに調子を取り戻し、元気になって仕事に出かけたい、あるいは、予定をこなしたい、と思うのは、そんなにいけない事なのであろうか。
 
 それが、良いことか悪いことかは、立場によって、意見が変わるであろう。しかし、一般的に、公認会計士、弁護士、自動車の修理などの高度な技術を要するサービス、つまり専門的な訓練を受けて、一定のレベルが国家試験で担保されている人々による仕事の恩恵にあずかる場合、長い待ち時間があったり、そのサービスを受けられる時間が決まっていたりするのは世の常である。
 
 神経疾患の患者が時間外に病院を受診するのは、どのような場合であろうか。脳梗塞、脳出血などの急性期で、直ちに入院して治療が必要な場合。神経変性疾患の患者が肺炎や尿路感染症を起こして発熱し、やはり入院加療が必要なケース。重症筋無力症のクリーゼや、ギラン・バレー症候群で気管内挿管が必要な場合など、様々であろう。私は、多発性硬化症の患者が、しゃっくりが夕食後に突然出現し、救急外来を受診してそのまま入院したケースを診察した事がある。脳幹部に再発をきたしており、直ちにステロイドパルス治療を施した。神経内科領域でも、やはり、24時間の医療体制は欠かせないものなのである。
 
 ついに厚労省も公に認めた絶対数としての医師不足。加えて少子高齢化が年々深刻化していく現代の日本。比較的軽い症状だが、事情があって日中には受診が出来なかった患者が気兼ねなく受診できるような医療システムを、国民のニーズに合わせて整備していくなど、時間外診療の住み分けをしていかないと、患者側では不満がつのり、医療サイドではますます疲弊が進み、1年365日、1日24時間の切れ目のない医療サービスの発展や維持は、次第に困難になっていくのではと危惧している。
 
 最後に、この投書を見た、当の医療機関の夜間救急対応の医師の感想を記して筆をおく。
「十分な検査が出来る昼間に来てほしい」
「夜間の救急なのに、たびたび受診すること自体がおかしい」
「夜通しの診療が終わっても、翌日の病棟勤務がある。明日まで待てるなら、そうしてほしかった」
 

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Created: Aug.22,2009