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(Updated: Apr.11,2010)
臨床医そして研究者として
越智 博文 |
私が臨床医としてMSに携わりはじめて、まだ10年足らずです。この間に何が一番変わったかと言えば、治療ではインターフェロンβ(IFNβ)が使えるようになったこと、病態解明ではNMOの再発見です。 2000年9月に『再発予防と進行抑制』を効能・効果としてIFNβ-1b(Betaferon)が日本ではじめて承認されました。それまでの日本のMS治療といえば、急性増悪(再発)期にステロイドパルス治療をすることぐらいで、再発予防はしたくても使用できる治療薬がないのが現状でした。ベタフェロンの登場で日本でも再発予防がある程度可能となり、多くの患者さんがその恩恵を受けています。「今度は悪くなったときに来てください」と外来で言われることが随分少なくなったと思います。 さらに、2006年7月にはIFNβ-1a(Avonex)も承認され、治療の選択肢が広がっています。しかし、IFNβ治療が無効であったり効果不十分であったり、また、副作用などのために使用できない患者さんが多数おられるのも事実です。このような患者さんをどう治療したら良いのか、常に頭を悩ませます。 現在日本では、再発予防薬として免疫グロブリン静注療法とリンパ組織からのリンパ球の遊走を抑制するFTY720の治験が進行中です。特に後者は、はじめての経口薬ということもあり大きな期待を集めています。また、glatiramer acetate (Copaxone:合成ペプチド)やnatalizumab (Tysabri:接着因子VLA4に対する抗体)の治験導入も決まったばかりです。 しかし欧米に目を向けるとどうでしょうか。米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)が認可している再発予防薬としては、上記の2種類のIFNβに加えて隔日皮下注のIFNβ-1a (Rebif)とIFNβ-1b(Extavia)、 glatiramer acetate、natalizumabといった免疫調整薬に加え、強力な免疫抑制薬であるmitoxantrone (Novantrone)の計7剤があり、これらの薬剤を患者さんの状態にあわせて段階的に使用するのが一般的です。 さらに、治験の結果から今後早期に市場に登場することが期待されている薬剤として、rituximab (CD20抗体)やalemtuzumab (CD52抗体)といったモノクローナル抗体製剤や経口薬のcladribineやfumarateなどもあり、日本での治療選択肢の少なさは明らかです。 患者さんの治療を取り巻く環境がここまで大きく異なる原因として、各国の薬事行政や患者数の違いがあることは事実です。しかし、我々臨床医の努力で改善できることも少なからずあるはずです。5年後、10年後のMS治療を見据えて、積極的に治験導入を進めていく姿勢が必要と思います。また、日本では臨床研究に比較して基礎研究が極端に少ないと反省しています。基礎免疫学や欧米との交流を深めながら、日本発のMS治療薬を世界に発信したいものです。“Treating MS” ではなく“Curing MS”、それが私たちの目標です。 |
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